- 相続税対策は自分に必要なのか知りたい
- どんな相続税対策の方法があるのか知りたい
- 相続税対策をいつから始めればよいのか知りたい
「相続税対策を始めるべきか迷っている」「具体的にどんな対策から始めればいいのだろうか」このような悩みを抱える人は多いはずだ。
相続税は税率が「最大55%から一定の控除額を引いたもの」と非常に高く、対策を誤ると相続人の手元に残る財産が大きく目減りしてしまう。
本記事では、相続税の基礎知識から具体的な対策方法まで、実例を交えながら分かりやすく解説していく。
この記事を読めば、あなたの状況に合った適切な対策を選び、大切な家族に財産を最大限に引き継ぐことができるだろう。
対策の前にまずは相続税の基礎知識を理解しよう

相続税対策を始める前に、まずは基本的な知識の習得が不可欠だ。正しい知識を身につけることで、より効果的な対策が可能となる。
税率や対象となる財産など、基本的な部分を見ていこう。
相続税とは相続する財産に課される税金のこと
相続税は被相続人(亡くなった人)から相続人が受け取る財産に対して課される税金だ。
特定の人に集中した財産から税金を徴収し、極端な貧富の差をなくす「富の再分配」を目的として設けられている。
相続税の概要は以下の通りだ。
- 税率
- 相続する財産額に応じて最大55%から一定の控除額を差し引いた金額
- 申告期限
- 相続開始(被相続人の死亡)から10ヶ月以内
- 納税方法
- 原則として一括納付(延納制度あり)
- 課税対象
- 金融資産、不動産、事業用資産など幅広い財産
もし課税対象にもかかわらず申告しなかったり、申告すべき財産を隠したりすると、以下のように税金が追加されるペナルティがある。
- 無申告加算税(申告しなかった場合)
- 納付すべき税額の最大20%
- 延滞税(納付が遅れた場合)
- 納付すべき税額の最大14.6%/年
- 過少申告加算税(財産を隠して申告した場合)
- 納付すべき税額の最大15%
- 重加算税(意図的な脱税行為があった場合)
- 納付すべき税額の最大40%
「このくらいならバレないだろう」と申告すべき財産を隠しても、相続後に税務署からの指摘でバレてしまうことが多い。
相続する配偶者や子どもに迷惑をかけないためにも、相続税の基本を理解し、漏れなく申告することが重要だ。
相続税の基本|税率・対象財産・評価方法
相続税がどのような税金か理解したところで、税率や対象となる財産、その財産の評価方法をそれぞれ解説する。
相続税の税率
相続税の税率は、課税価格に応じて8段階で変動する。
財産額と税率の関係は以下の表の通りだ。
課税金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | なし |
1,000万円超~3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超~1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超~2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超~3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超~6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
では、どの財産が課税対象となるのか見ていこう。
相続税の対象財産
相続税の課税対象となる主な財産は以下の通り。
- 現金・預貯金
- 有価証券(株式、投資信託など)
- 不動産(土地、建物)
- 事業用資産(機械設備、商品など)
- 生命保険金・死亡退職金(※一定の非課税限度額を超えて支給されたもの)
- 貴金属・美術品・骨董品
- 自動車
- 著作権・特許権などの知的財産権
現金や預貯金はもちろん、有価証券や不動産、自動車のような「価値があるとみなされる(評価される)」ものは、ほぼすべて対象となっている。
漏れなく対象財産を評価し、正しく相続税を納めるためには、税理士やIFA(金融アドバイザー)のような専門家に相談するのがおすすめだ。
相続税の財産評価方法
相続財産は、原則として相続が発生した時点の価値で評価する。
ただし、財産の種類によって、以下のように評価方法は異なっている。
- 土地
- 国税庁が定めた価格表を使って評価
- 上場株式
- 取引所での株価により評価
- 非上場株式
- 会社の規模や業績から評価
- 家屋
- 固定資産税の評価額をもとに計算
- 預貯金
- 通帳に記載の金額で評価
- 生命保険金
- 保険会社からの受取金額
特に土地の評価は複雑だ。国税庁が定めた価格表をもとに計算するが、この価格は実際に売買される価格より低めに設定されている。
また、土地の形や使い方によって価格が変わることもある。財産の評価には専門的な計算方法があり、分かりづらい部分が多い。
そのため、税理士などの専門家に相談して、正しい評価額を計算してもらうのがよいだろう。
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」
相続税は全ての相続財産に課されるわけではない。一定額までは税金がかからない「基礎控除」という制度がある。
基礎控除額は次の計算式で求められる。
この計算式を具体例で見てみよう。
配偶者と子供2人の場合、法定相続人は3人となるため、基礎控除額は以下のように計算できる。
つまりこの場合、相続財産が4,800万円以下なら相続税はかからない。
相続財産がこの金額を超えると、超えた部分に対して税率に基づいた相続税が課されることになる。
基礎控除額を超える財産がある場合は、相続税対策を検討する必要があるだろう。
その他の相続税の控除一覧
相続税には基礎控除以外にも、様々な控除制度が用意されている。
主な控除制度とその内容を以下の表にまとめた。
控除制度 | 対象者(相続人=相続される人) | 控除額 |
---|---|---|
配偶者の税額軽減 | 配偶者(夫または妻) | 1億6,000万円または配偶者の法定相続分相当額のいずれか大きい額 |
未成年者控除 | 18歳未満の相続人 | 10万円×(18歳-相続時の年齢) |
障害者控除 | 障害者である相続人 | ・一般障害者:1年につき6万円×(85歳-相続時の年齢) ・特別障害者:1年につき12万円×(85歳-相続時の年齢) |
相次相続控除 | 10年以内に2回以上の相続が発生した場合の相続人 | 前回の相続時、相続により取得した財産に対して支払った相続税額×(10年-経過年数) |
出典:国税庁「未成年者控除」
出典:国税庁「障害者の税額控除」
出典:国税庁「相次相続控除」
ただし、これらの控除を受けるためには、正しい申告手続きが必要となる。
必要書類の準備や計算方法も複雑なため、税理士やIFAのような専門家に相談しながら手続きを進めることをおすすめする。
相続税対策が必要な人とは?

相続税対策は誰もが必要なわけではない。
しかし、次のような条件に当てはまる人は、将来の相続に向けて早めの対策を検討したほうがよいだろう。
基礎控除額を超える財産を保有している人
相続財産が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続税が課税される可能性が高い。
例えば、自宅の土地・建物を合わせて5,000万円、預貯金が3,000万円ある場合、合計8,000万円の財産となる。
法定相続人が配偶者と子供2人の場合、基礎控除額は4,800万円となるため、財産の金額からこの控除額を差し引いた3,200万円に対して相続税がかかることになる。
「明らかに財産の金額が基礎控除額を超えている」場合には、相続税対策を行っておくべきだろう。
不動産・株式など評価額が高く変動しやすい財産を多く保有している人
不動産や株式は、市場の動向によって価値が大きく変動する。
特に、都心部の不動産や上場企業の株式は、相続が発生した時点の評価額が予想以上に高くなる可能性がある。
このような財産を多く保有している場合、相続税対策は必須といえるだろう。
会社を経営している人
会社を経営している場合、事業用の資産や自社株式の評価額が大きな問題となる。
特に非上場会社の株式は、会社の規模や業績によって評価額が決まるため、予想以上に高額になりがちだ。
また、事業用の不動産や機械設備なども相続税の対象となることから、相続税額が基礎控除額を超えるケースが非常に多い。
こうした資産をスムーズに引き継ぐためには、自社株の生前贈与や事業承継税制の活用など、専門的な対策が必要だ。
自分ひとりで相続税対策をするのは困難なため、必ず専門家に相談しよう。
「ほぼ家しか相続するものがない」など特定の財産に資産が集中している人
相続財産の大部分が自宅の土地・建物で占められているケースも要注意だ。
現金や預貯金が少なく、不動産に財産が偏っている場合、相続税の支払いに困る可能性がある。
例えば、評価額8,000万円の自宅と500万円の預貯金を相続する場合を考えてみよう。
他の財産を考慮せず、法定相続人が子ども一人の場合、基礎控除額(3,600万円)を超える部分にかかる相続税は780万円だ。
しかし、現金は500万円しか相続されないため、残りの280万円の納税資金確保が難しくなってしまう場合がある。
このような場合は生命保険に加入しておいたり、余裕があるうちに不動産の一部を売却したりするなど、早めの対策が必要だ。
効果的な相続税対策7選

相続税対策にはさまざまな方法がある。ここでは、特に効果的な7つの対策を紹介する。
生命保険を契約する|「500万円×法定相続人の数」は非課税
生命保険は、相続税対策の基本的な手法のひとつだ。
生命保険の死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」までの非課税枠が設けられている。
例えば、配偶者と子供2人の場合、1,500万円(500万円×3人)まで非課税となる。
また、生命保険は現金で受け取れるため、納税資金の確保にも役立つ。
ただし、保険料が高額になる可能性もあるため、加入時期や保障内容は慎重に検討しよう。
また、このあと「生命保険の受取人を正しく設定しないと高額な税金がかかることがある」で解説しているが、受取人の指定を誤ると非課税メリットを受けられない場合もあるため、専門家に相談しながら契約するのが賢明だ。
- 出典:国税庁「相続税の課税対象になる死亡保険金」
生前贈与を行う|毎年受贈者1人につき110万円まで非課税
生前贈与は、財産を少しずつ次の世代に移転することで、将来の相続税を減らす方法である。
贈与税には毎年110万円までの基礎控除があり、この金額を超えない範囲で行う贈与には税金がかからない。
例えば、子供2人に毎年110万円ずつ贈与すると、年間220万円の財産を非課税で移転できる。
これを10年間続けると、2,200万円もの財産を相続財産から減らすことができ、将来の相続税負担を大きく軽減することが可能だ。
ただし、このあと「生前贈与加算が3年から7年に変わり相続財産の金額が増えやすくなった」で詳しく解説しているように、生前贈与でも亡くなった年から一定期間はさかのぼって相続税の評価対象にされてしまう場合がある。
そのため、生前贈与にはなるべく早く取り組み始めよう。
- 出典:国税庁「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
贈与税の非課税・控除特例を使う|住宅取得等資金や子育て資金が非課税になる場合あり
贈与税には、使用目的によって非課税となる特例制度が複数用意されている。
主な特例制度とその内容は以下の通りだ。
特例制度 | 非課税限度額 | 主な条件 |
---|---|---|
教育資金の贈与 | 1,500万円まで | ・30歳未満の子や孫への贈与 ・教育目的の支出に限定 ・受贈者(受け取る側)の前年所得が1,000万円以下 |
結婚・子育て資金の贈与(※) | 1,000万円まで | ・20歳以上50歳未満の子や孫への贈与 ・結婚/出産/育児関連費用に限定 |
住宅取得等資金の贈与 | 要件により最大1,000万円まで | ・住宅取得やリフォーム資金への贈与 ・消費税率などにより限度額が変動 |
出典:国税庁「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
出典:国税庁「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
※結婚・子育て資金の贈与に関する特例制度は、2025年度以降での廃止が議論されているため、早めの利用を推奨
これらの特例は、通常の基礎控除110万円とは別枠で利用できる。
例えば、孫の教育資金として1,500万円を贈与しつつ、別途110万円を現金で贈与することも可能だ。
ただし、使途を証明する書類の保管など細かい要件があるため、税理士などに相談しながら進めることをおすすめする。
相続時精算課税制度を利用する|受贈者が2,500万円まで贈与税の対象外に
相続時精算課税制度は、60歳以上の親から18歳以上の子や孫に対して、2,500万円までの財産を贈与税の対象外で贈与できる制度だ。
贈与時の贈与税は一旦計算されるものの、将来の相続時に相続財産として一括精算する形となる。
この制度は仕組みが若干ややこしいため、具体的なシミュレーションで見てみよう。
例えば、現在の評価額が3,000万円のマンションを子供に贈与する場合を考える。
- 贈与財産
- 3,000万円
- 基礎控除
- 110万円
- 課税対象
- 2,890万円
- 贈与税
- 約1,035万円
- 贈与財産
- 3,000万円
- 基礎控除
- 110万円
- 特別控除
- 2,500万円
- 課税対象
- 390万円
- 贈与時の納税額
- 78万円(※)
- 相続時の取扱い
- 贈与時の評価額3,000万円相続財産に加算。二重課税防止のため、贈与時の納税額78万円は発生した相続税から差し引かれる(相続税額が78万円未満の場合は差額の還付が発生)
- 相続時精算課税制度を使った場合、贈与税の税率は一律20%となる
このように、相続時精算課税制度は「贈与税を支払わなくていい」わけではなく、「贈与財産を相続財産の一部として扱い、最終的に相続税として一括精算できる」制度だ。
とはいえ、贈与税の基礎控除110万円の恩恵をプラスで受けつつ、相続に持ち込むことができるメリットがある。
また、将来マンションの価値が5,000万円に上がったとしても、贈与時の3,000万円が相続財産に加算されるため、値上がり分の2,000万円には課税されない。
さらに、マンションの賃貸収入についても生前から受贈者に移転できることから、贈与者の財産が増えすぎて相続税額が高くなるリスクを防止できる。
ただし、一度相続時精算課税制度の利用には以下の注意点がある。
- 一度この制度を選ぶと通常の贈与制度には戻れない
- 贈与した財産が値下がりしても、贈与時の価額で相続財産に加算される
- 制度を使って贈与を受けた子供は、相続時に相続放棄ができない
この制度は不動産や株式など、将来の値上がりが期待できる資産の贈与に特に有効だ。
ただし、選択には慎重な検討が必要なため、税理士やIFAなどの専門家に相談しながら進めることをおすすめする。
- 出典:国税庁「相続時精算課税の選択」
小規模宅地等の特例を活用する|不動産は相続税評価額が減る
相続財産の中でも特に不動産は、評価額が大きくなりやすく相続税の負担も重くなりがちだ。
しかし、「小規模宅地等の特例」を利用すると、土地の評価額を大幅に下げることができる。
この特例の活用例を具体的な数字で見てみよう。
- 自宅の土地の評価額
- 5,000万円
- 相続税の対象
- 5,000万円(全額)
- 自宅の土地の評価額
- 5,000万円
- 減額率
- 80%
- 相続税の対象
- 1,000万円(5,000万円×20%)
この特例が適用できる土地の用途と上限面積、減額率は以下の通りだ。
土地の用途 | 上限面積 | 減額率 |
---|---|---|
自宅の敷地 | 330㎡まで | 80% |
事業用の土地 | 400㎡まで | 80% |
貸付用の土地 | 200㎡まで | 50% |
この特例を活用するには、以下のような要件を満たす必要がある。
- 被相続人が亡くなる直前まで居住や事業に使用していたこと
- 相続人が相続後も引き続き居住や事業を継続すること
- 相続開始から10ヶ月以内に申告すること
特に「相続後も事業や居住を継続する」という条件は重要だ。
「もう住まないから」と安易に土地を売却してしまうと、特例が適用されず追加で税金を支払う必要が生じることもある。
専門家に相談しながら慎重に判断しよう。
賃貸ワンルームマンションを購入する|賃貸すると相続税評価額が大幅に下がる
不動産を所有する場合、賃貸に出すことで相続税評価額を下げられる場合がある。
特に、土地の割合が小さい「ワンルームマンション」を購入して賃貸に出す方法は、多くの人が活用している相続税対策のひとつだ。
賃貸に出している物件の建物部分は、以下のように相続税評価額が下がる仕組みとなっている。
賃貸割合とは、文字通り「物件のうち賃貸に出している割合」のこと。
1室のみ保有しており、その1室に人が住んでいる状態なら、賃貸割合は100%だ。
つまり、先ほどの計算式に当てはめると、マンションの建物部分の相続税評価額は70%に減額できる。
土地部分についても「小規模宅地等の特例」の適用により、評価額を50%に減らすことが可能だ。
具体的な評価額の違いを、現金で持っている場合と賃貸マンションに換えた場合で比較してみよう。
現金3,000万円を持ったままにするケース
- 保有現金額
- 3,000万円
- 相続税評価額
- 3,000万円(現金は額面通り評価)
3,000万円でマンションを購入し賃貸に出したケース
- マンション購入金額
- 3,000万円(土地900万円・建物2,100万円とする)
- 固定資産税評価額(※)
- 2,100万円(土地630万円・建物1,470万円)
- 相続税評価額
- 1,344万円(土地315万円・建物1,029万円)
- 固定資産税評価額は地域や建物の状況により異なるが、目安となる70%で計算
このように、同じ3,000万円の資産でも賃貸マンションとして所有することで、相続税の評価額を大幅に抑えられる。
相続税額計算の基礎となる「固定資産税評価額」が、購入当初の金額より下がるのもポイントだ。
ただし、以下の点には注意しよう。
- 空室により損失が発生するリスクがある
- 物件の選定を誤ると収益性や将来の価値が低下する
- 相続までの期間が短いと効果が薄い
そのため、十分な時間的余裕を持って、立地や物件の選定を慎重に行うことが重要だ。
相続税対策として不動産投資を検討する場合は、必ずIFAなどの専門家に相談しよう。
墓地や仏具を生前に購入する|墓地・仏具は非課税財産
お墓や仏具は、相続税の対象とならない非課税財産だ。
そのため、生前にこれらを購入しておくことで、課税対象となる現金を減らすことができる。
非課税財産として認められているものの具体例は以下の通りだ。
- お墓の永代使用料
- 墓石の建立費用
- 位牌・仏壇などの仏具
- お寺の永代供養料
ただし、以下の点には注意が必要だ。
- 必要以上に高額な仏具は課税対象となる可能性がある(骨董品・美術品と解釈できるものはNG)
- 相続開始前に実際に購入・建立している必要がある
- 購入時の領収書などを保管しなければならない
あくまで実際に必要なものを購入する、という考え方が基本となる点を押さえておこう。
- 出典:国税庁「第12条《相続税の非課税財産》関係」
相続税対策の注意点

ここまでさまざまな相続税対策の方法を紹介してきた。
しかし、実際の相続で想定外の税金を発生させないために、いくつかの重要な注意点がある。
ここでは、特に気をつけるべき3つのポイントを解説する。
生前贈与加算が3年から7年に変わり相続財産の金額が増えやすくなった
2023年からの税制改正により、相続前の贈与財産の加算期間が「3年」から「7年」に延長された。これは、相続開始前7年以内に行った贈与財産が相続財産に加算されることを意味する。
具体的な影響を見てみよう。
改正前
- 相続開始の3年前
- 現金110万円を贈与→相続財産に加算
- 相続開始の4年前~7年前の4年間
- 毎年現金110万円を贈与→相続財産に加算されない
- 相続財産への加算額
- 110万円
改正後
- 相続開始の3年前
- 現金110万円を贈与→相続財産に加算
- 相続開始の4年前~7年前の4年間
- 毎年現金110万円を贈与→合計額440万円がすべて相続財産に加算
- 相続財産への加算額
- 550万円
以前なら相続財産に加算されなかった贈与も対象となるため、相続税額が予想以上に高くなる可能性がある。
この7年ルールを意識し、ムダな税金を発生させない生前贈与を計画しよう。
「明らかに相続税対策」とみなされる不動産相続は評価額が上がってしまうリスクがある
不動産を活用した相続税対策は効果的だが、税務署から「明らかな税金逃れ」と判断されると、思わぬ追徴課税を受けるリスクがある。
具体的な相続税対策とみなされやすい事例を見てみよう。
- 被相続人の死期が迫っているのに、急いで不動産を購入した
- 実態のない賃貸契約を結んで評価額を下げようとした
- 事業実態のない駐車場経営を始めた
例えば、重病の親が突然高額なアパートを購入するようなケースでは、税務署から「相続税対策が目的の不自然な取引」と判断される可能性が高い。
このようなケースでは取引自体が否認され、本来の評価額で課税されることがある。
そのため、不動産を活用した相続税対策では「取引に合理的な理由があること」や「事業として実態があること」に気をつけなければならない。
生命保険の受取人を正しく設定しないと高額な税金がかかることがある
生命保険は相続税対策の定番だが、受取人の指定を誤ると非課税メリットを受けられない。
「契約者と被保険者が被相続人」で「保険金受取人が相続人」でなければ、所得税や贈与税の対象となってしまうためだ。
具体的な例で見てみよう。
保険金が「500万円×法定相続人の数」まで非課税になるケース
- 契約者(保険料負担者)
- 被相続人(父)
- 被保険者
- 被相続人(父)
- 保険金受取人
- 相続人(子)
保険金が一時所得として所得税の課税対象になってしまうケース
- 契約者(保険料負担者)
- 相続人(子)
- 被保険者
- 被相続人(父)
- 保険金受取人
- 相続人(子)
契約者と被保険者が被相続人の状態で、保険金受取人が相続人になっていれば、保険金は「500万円×法定相続人の数」まで非課税となる。
誤った設定で高額な所得税や贈与税を発生させないよう、生前から契約状況を見直ししておこう。
相続税対策に悩んだらプロに相談しよう

相続税対策は種類が多く複雑で、一般の人には判断が難しい分野だ。
さらに、相続時精算課税制度や小規模宅地の特例などを利用するには申告が必要となるため、何をどのように書いて、どう申告すればよいか途方に暮れてしまう人も多い。
そこで税理士やIFAのような専門家に相談すれば、自分に合った効果的な相続税対策を見つけることができる。
専門家に相談するメリットや、実際の相談先について詳しく見ていこう。
相続税対策を専門家に相談する3つのメリット
相続税の専門家に相談することで、以下のようなメリットが得られる。
- 確実な節税効果が見込める方法を提案してもらえる
- 自分では気づかない控除や特例を教えてもらえる
- 相続人全員の立場を考慮した公平な対策を立てられる
例えば、土地の評価方法一つをとっても、専門家のアドバイスを受けることで大きな差が生まれる。
更地として評価するか、建物付きの土地として評価するかで、税額が数百万円変わることも珍しくない。
また、相続税の控除や特例は毎年のように制度が変更されており、一般の人が最新情報をすべて把握するのは難しいだろう。
専門家は常に新しい情報をキャッチアップしているため、その時点でもっとも効果的な対策を提案してくれる。
さらに重要なのが、相続人全員の利害関係を考慮した公平な対策プランを立てることだ。
相続は家族間の争いに発展するケースも多いが、専門家が間に入ることで、感情的な対立を避けつつ理論的な解決が可能となる。
相続財産の組み合わせ方や収益物件の配分方法など、専門家の客観的な視点からの提案は、スムーズでトラブルのない相続の実現に大きく影響するだろう。
相続税対策の相談先3選
相続税対策の相談先には、税理士、証券会社・信託銀行、IFA(金融アドバイザー)などがある。
それぞれの特徴を理解し、自分のケースに合った相談先を選ぶことが重要だ。
相談先 | メリット | デメリット | おすすめな人・ケース |
---|---|---|---|
税理士 | 税務の専門知識がある 具体的な節税方法の提案に強い 申請書作成代行にも対応する | 相談料が高い傾向がある 金融商品の提案ができない | 不動産など複雑な相続が中心となる人 会社の相続が発生する人 申告関係まで依頼したい人 |
証券会社/信託銀行 | 金融商品の知識が豊富 資産運用を中心とした相続税対策に強い 無料相談が多い | 自社商品の提案が中心となる 税務の専門性は税理士より低い傾向がある | 現金が多い人 相談費用を抑えたい人 |
IFA | 中立的な立場から客観的な提案をしてくれる 純粋な節税から資産運用を用いた相続税対策まで幅広い提案に対応する 申告関係も含め継続的にサポートしてくれる | 個人の力量に差がある 明確な事務所を構えていないことも多い | 自分に合った相続税対策がまったく不明な人 中立的なアドバイスを求める人 申告関係までサポートしてほしい人 |
それでは、それぞれの相談先の特徴をより詳しく見ていこう。
税理士
税理士は相続税に関する専門的な知識を持つプロフェッショナルだ。
主な強みは税金に関する幅広い知識、具体的な節税方法の提案、相続税の申告書作成にある。
税理士は相続財産の評価方法から、各種控除の適用、申告書の作成まで一貫してサポートしてくれる。
特に、不動産や事業用資産など、評価額の算出が難しい財産がある場合は、税理士のサポートが不可欠といえるだろう。
ただし、料金は税理士によって大きく異なるため、複数の事務所に相談して比較検討することをおすすめする。
証券会社/信託銀行
証券会社や信託銀行は、金融商品を活用した相続対策が得意だ。
生命保険や投資信託など、金融商品に関する幅広い知識を持ち、資産運用の観点からアドバイスをしてくれる。
また多くの場合、無料で相談を受けられるのがメリットといえる。
ただし、自社の金融商品を中心とした提案になりやすく、税務に関する専門性は税理士ほど高くない場合が多い。
そのため、金融資産が中心の相続では心強い味方となるが、不動産や会社の相続が絡む場合は、税理士とも併せて相談するのがよいだろう。
IFA
IFAは、特定の金融機関に属さない独立したアドバイザーだ。
証券会社や信託銀行と異なり、特定の商品を推奨する必要がないため、中立的な立場から最適な金融商品や相続対策を提案してくれる。
また、申告関連も含めた継続的なサポートを受けられることも大きな特徴だ。
「自分のケースに合った相続対策の見当がつかない」「税理士に依頼するほど費用をかけたくないが、申告関係もサポートしてほしい」といった人には、IFAへの相談をおすすめする。
ただし、IFAは比較的新しい職業であり、個人の力量に差があることは否めない。
資格の有無や実績を十分に確認しながら、実際に相談するIFAを選ぼう。
相続税は生前からの対策が重要!家族のために今から考えてみよう

相続税の最高税率は55%にも及び、対策を怠ると相続財産の半分近くが税金として持っていかれる可能性もある。
しかし、適切な対策を行えば、納税額を大幅に抑えることが可能だ。
本記事で紹介したように、相続税対策には生命保険の活用や生前贈与、不動産の活用など、さまざまな方法がある。
ただし、財産の構成や家族構成によって、最適な対策は大きく異なってくる。
また、税制改正により制度が変更されることも多いため、最新の情報を調べながら対策を練らなければならない。
そのため、専門家に相談しながら進めることが重要だ。
あなたに合った専門家を見つけて、相続の悩みや不安を相談してみよう。
相続税の対策に関するQ&A
